2020年4月20日月曜日

恋テック -アフターコロナの世界-


突然だが、僕はモテない。

『貴ちゃんはあれやね。いまどきの…何やったっけ。植物系?』「それ草食系やろ!」婚活エージェントを長年やっている遠縁のおばさんは、ずけずけと説教する。今回もそれだ。『男はもっとガツガツ行かな。そげなことやけ日本は年寄りばっかりて。最近の男はだらしなかけんね』

酷い。

しかしこのマシンガントークに反論したところでハチの巣にされると分かった僕は、苦笑いで誤魔化した。結局2時間喋り続けたのだが。

僕だって一生懸命働いている。ただし、2016年の超高齢社会の日本の地方で、仕事に打ち込む男には年頃の女性との出会いが非常に少ないというのも事実。

今、シリコンバレーの教会にいる。大学時代の友人が、ベンチャー企業で成功した挙句に美人と結婚するときた。親友の僕はここ数年彼女すら居ないのに。リア充爆発しろ。航空券わりかし高かったな…苦笑

「…で結局、どこで捕まえたんだよこんな美人」『いや、マッチングアプリで』「うわ、マジか」『お前古いんだよ。出身大学、職業だけじゃなくて、趣味や人柄、よく行く店のデータなんかもAIが判定して、相性のいい人を紹介してくれるんだから。今はデジタルツインでバーチャルデートもできるし。ビックデータくらい知っているっしょ?』

夜、教わったアプリを開いてみたが、英文の利用規約を読んでいるうちに頭痛がしたので断念。くそ…タイムマシン経営...日本でも流行るなこれ。婚活とテクノロジー、"婚テック"と名付けよう。

僕はふと思いついた。昔は親戚が多かったから、相手を紹介してくれる世話焼きばあさんには事欠かなかった。しかし逆を言えば、独身の異性の存在を「教えてくれる存在」が無ければ当時も出会いは少なかったということ。日本の少子化の原因は結婚・出産・子育てにかかるコストが高すぎることだ。生産性が低く、毎日残業の環境で相手を探すのは大変だ。

そして...2030年現在、人口減少時代に突入し人口1億人を割り込む瀬戸際に立たされた日本で、唯一出生率が倍増した町がある。『恋テック』をいち早く自治体で導入した北十州市だ。あなたの運命の人はここに居るかも!?のコピーで出会いを求める若者に登録を薦めた。更に、音声入力という簡素な事務手続きが人気に拍車をかけた。

市に移住したカップルには、趣味や行動範囲をもとに住居、銀行などを紹介。子供の学校や習い事のマッチングもしてくれる。フィンテックはもう死語だ。また、外出せずに出会いたい、無茶だが切実な要望にデジタルのアバターが応えたというわけ。

「やけんさ、今はAIが似合いの相手も探してくれるって。おばちゃんのやり方はちっと遅れとっちゃないと?」僕は久々に電話してきたおばさんに、少々自慢げに語った。『なんね、データマッチングやら10年前からやっとるばい。個人情報の規則…あれ、DDT?が厳しいけそげん言われんかったけど』

ん?ところでDDTって何だ?どうてぃ?じゃないよな?
「…ねえおばさん、もしかしてGDPRち言いたいと?」70過ぎのおばさんの口から、プライバシー保護の用語が出てきた事にショックを受けた。実はイノベーションは起きていたのだ。
草食系男子とか説教する前に教えてよ、おばさん…

2030年現在、やはり僕はモテない。

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